アメリカの「コミュニティ・カレッジ」とはどんな大学か?

アメリカの大学のひとつ「コミュニティ・カレッジ(コミカレ)」とは、公立の二年制大学のことを指します。
これらの大学はエリート向けの私立大学と違い、もともとは地域住民のためにつくられたため「望めばだれでも学べる」というポリシーを掲げています。
そのため学費が安く、入学難度も低いのが特徴で、コミュニティ・カレッジの卒業後は、四年制大学に編入することもできます。
費用的メリットの観点から、留学生はもちろん、アメリカでも新たな脚光を浴びつつあるコミュニティ・カレッジについて、詳しく説明します。
もくじ
1. コミュニティ・カレッジとは
2. 大学進学の選択肢としてのコミュニティ・カレッジ
3. コミュニティ・カレッジの成り立ち
4. 「すべての人に門戸を開く」という理念
5. コミュニティ・カレッジの学生とは?
6. 四年制大学への道も開かれる
7. 融通性と柔軟性が持ち味
8. コミュニティ・カレッジのいま
9. コミュニティ・カレッジの課題
コミュニティ・カレッジとは

コミュニティ・カレッジ(Community College)とは、公立の二年制大学のことです。全米の大学数、約4000校程の内、約3割にあたる1200校ほどがこのコミュニティ・カレッジになります(American Association of Community Collegesより)。
その地域(=コミュニティ)の人に、できるだけ安価で大学教育と職業訓練を提供するのがコミュニティ・カレッジのおもな役割です。成人教育や生涯教育にも、コミュニティ・カレッジは力を入れています。
コミュニティ・カレッジの特徴は、なんといっても学費が安いこと。年間の学費はだいたい5,000~10,000ドルです。これは四年制大学に比べて半額か、さらに安いくらいです。
アメリカではここ数年、四年制大学の学費がどんどん高くなっています。このままでは大学に行ける人がいなくなってしまうのではないかと危惧されているほどです。そのため、学費の安いコミュニティ・カレッジが関心を集めつつあります。

大学進学の選択肢としてのコミュニティ・カレッジ
留学を志す人にとっても、アメリカの大学の学費の高さは大きな壁となっています。
四年制大学の平均の学費は、州立が年間24,000ドル、私立が32,000ドルです。レベルの高い大学ほど学費も高くなる傾向があって、州立のUCLAが35,000ドル、私立のハーバードは45,000ドルです。これではたしかに、四年制大学に4年間在学することはもはや不可能だといわれてもしかたがありません。
そのため、コミュニティ・カレッジで2年間学び、その後、四年制大学に編入する学生が増えています。アメリカの大学生の約4割が、コミュニティ・カレッジの学生です。大学進学の一つのオプションとして、費用の負担が小さいコミュニティ・カレッジが注目されつつあるのです。
コミュニティ・カレッジで2年学び、それから四年制大学に進学して2年後に卒業する進学方法を一般に「2+2」(ツープラスツー)といいます。
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コミュニティ・カレッジの成り立ち
アメリカで最初のコミュニティ・カレッジは、1901年にできました。イリノイ州のJoliet Junior Collegeがそうです。この大学はいまでも16,000人の学生を抱え、地域の大学教育に大きく貢献しています。

その後も各地でコミュニティ・カレッジがつくられていきますが、第二次世界大戦が終わる頃から、退役軍人の受入先として大きく発展したのが一つのターニングポイントとなりました。1944年から1947年のわずか3年で、コミュニティ・カレッジの在学生数が倍増します。
「すべての人に門戸を開く」という理念
この時期から、大学へ行くことはそれまでのような「一部の人の特権」ではなく、「すべての人に等しく与えられる権利」であると考えられるようになります。
同時にコミュニティ・カレッジも、教育の質を高めるよりも、「すべての人に門戸を開く」という役割を担うようになりました。教育の質を高めるためには入学者を選抜しなければならず、「すべての人に門戸を開く」という理念と反することになるからです。また同じ理由から、学費もできる限り安く設定されています。
さらに1947年には、当時の政府が「コミュニティ・カレッジは、すべてのアメリカ国民が<通学できる>位置につくられるべきである」ことを提案します。これにより、コミュニティ・カレッジは、都市部を中心として、通学が可能な人が住んでいるところに設けられるようになりました。したがってその地元(=コミュニティ)の人種や教育レベル、所得層などのローカルな特徴が、コミュニティ・カレッジの学生構成に大きく反映されるようになります。
コミュニティ・カレッジの学生とは?
「望めばだれでも大学教育を与える」ことをモットーとするコミュニティ・カレッジは、とくに低所得者層や、人種的マイノリティ(白人以外)の人たちの受入先としてさらに発展を遂げます。
1950~1960年代にかけての公民権運動は人種的マイノリティの大学進学への意欲を大きく刺激しました。コミュニティ・カレッジの在学生数も、1965年から2009年にかけて7倍も増えています。
黒人やヒスパニックなどのマイノリティのほうが白人よりも多数を占めるコミュニティ・カレッジもめずらしくありません。とくに中南米からのヒスパニック系移民が多い州(カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州など)では、マイノリティとマジョリティが逆転しているコミュニティ・カレッジも数多く見られます。
親からの経済援助を受けていない学生の率が高い(57%。四年制大学では32%)のもコミュニティ・カレッジの学生の特徴です。働きながら通っているパートタイムの学生も、コミュニティ・カレッジでは6割を占めています。学生の年齢も高く、平均年齢は28.5歳です。日本の短大とは学生のありかたが大きく異なります。
コミュニティ・カレッジは、「だれでも学べる大学」ですから、入学者の選抜は行いません。いわゆる全入制(open admission)です。
高卒者であれば、だれでも入学できます。アメリカは高校までが義務教育ですので、すべてのアメリカ人がコミュニティ・カレッジで学ぶ権利をもっていることになります。地域によっては、高校中退者にもコミュニティ・カレッジで学ぶチャンスを与えています。もちろん性別による差別も行いませんから、コミュニティ・カレッジはすべて共学です。
四年制大学への道も開かれる

アメリカの大学は単位制です。取得した単位の数で、学年や卒業時期が決まります。これはコミュニティ・カレッジでも四年制大学でも変わりません。
単位(credit、unit)とは、「ある科目に対して費やす勉強時間数」のことで、全米的なスタンダードのうえに成り立っています。コミュニティ・カレッジで学んだ「英作文:3単位」という科目は、ほかのどの大学でも「英作文:3単位」として認められるということです。
このような全米的に統一された単位の互換システムがあるので、アメリカでは、ある大学から別の大学への「編入(transfer)」がごく当たり前に行われています。アメリカの大学生の3人に一人が編入を経験しているといわれています。
コミュニティ・カレッジを卒業すれば、原則として四年制大学の3年生として編入できます。同じ州内の大学間の編入であれば単位互換の手続もスムーズですが、他の州の大学であっても編入できます。
最初から四年制大学に行くには経済的・学力的には不安があるという人であっても、コミュニティ・カレッジを経由すれば四年制大学への道が開かれます。
コミュニティ・カレッジでオールAの成績を修めれば、奨学金を得て名門大学に進学するのも夢ではありません。なお日本の大学の単位も認められますので、日本の大学をやめてアメリカの大学に留学する人もたくさんいます。
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融通性と柔軟性が持ち味
コミュニティ・カレッジは、当初から成人教育や生涯教育に力を注いできました。授業を夕方や週末に開講するなどして、働きながら通いやすいようにさまざまな便宜をはかっています。
アメリカの四年制大学は、寮生活が中心です。寮生活を送りながら、授業や課外活動に打ち込み、どっぷりと大学生活に浸るのが四年制大学の学生のありかたです。
しかし、コミュニティ・カレッジではそのようなことはありません。1日24時間を大学生として過ごすのではなく、働いたり育児をしたりしながら、自分のペースで必要な科目だけを学ぶことができます。
最近ではオンラインの授業が、忙しい社会人の間で人気を集めています。働いている人にとっては、そんな融通性がコミュニティ・カレッジの魅力の一つです。
また時代の流れや社会の変化に応じて、ニーズの高いスキルの訓練に力を注いだり、カリキュラムを新設したりといった柔軟性も、コミュニティ・カレッジの持ち味です。
四年制大学は、創立当初の理念をしっかり守り抜いていくという気風がありますが、コミュニティ・カレッジには、そういう意味でのこだわりはありません。コンピュータからフラワーアレンジメントまで、仕事に必要なスキルからシニア層の趣味に至るまで、ニーズがあればそのクラスをすぐさま開講するというのがコミュニティ・カレッジの基本的な姿勢です。市民講座やカルチャースクールのような一面もコミュニティ・カレッジには少なからずあります。
コミュニティ・カレッジのいま

「安くて」「だれでも入れる」コミュニティ・カレッジは、経済的・学力的な理由で四年制大学に行けない人の受け皿としての役割を果たしてきました。
しかしいまでは、そのようなネガティブな理由ではなく、むしろポジティブな理由でコミュニティ・カレッジに進学する人も増えています。
現在、アメリカで四年制大学に行くためには奨学金が欠かせません。それほど四年制大学の学費は値上がりを続けています。
私立のハーバード大学で年間45,000ドル、州立のUCLAですら35,000ドルもの学費がかかるのが現状です。アメリカの学生はローンを組むなどしてどうにか四年制大学への進学を果たしていますが、卒業時の負債額が膨大になり、これはたいへんな社会問題になっています。アメリカの大学生の卒業時の負債額は平均して3万ドルにものぼるといわれています。
コミュニティ・カレッジで2年間学び、それから四年制大学に編入すれば、4年間の大学教育のうち最初の2年間の学費を大幅に節約できます。これを大きなアドバンテージとしてとらえれば、コミュニティ・カレッジへの進学はポジティブな選択肢になるはずです。
アメリカで四年制の学位(Bachelor’s Degree)を取得した学生の3割が、コミュニティ・カレッジから大学生活をスタートさせたといわれています。それだけ「2+2」という進学方法が普及しているということです。この割合はさらに大きくなるだろうと思われます。留学生も、この「2+2」を活用すれば留学費用を大幅に節約することができます。
コミュニティ・カレッジの課題
コミュニティ・カレッジは、すべての人に等しく大学教育を受けるチャンスを与えるという意味で、「入口」としての使命は十分に果たしているといえるでしょう。しかし「出口」のほうは、まだまだ課題を残しています。たとえばコミュニティ・カレッジを2年で卒業する人はわずか13%です。またコミュニティ・カレッジから四年制大学への編入率は、全米平均で25%に過ぎません。
「望めばだれでも大学教育を受けられる」という理念をさらに推し進めているのが、オバマ大統領です。オバマ大統領は2015年1月に、「コミュニティ・カレッジの無償化」を提案しました。この成り行きにはアメリカ全土が注目しています。
アメリカでは学費と教育の質は相関関係にあるというのが常識となっています。コミュニティ・カレッジは「安い」ゆえに、「教育の質はそれほど期待できない」という一面があるのも事実です。学費の安いコミュニティ・カレッジが、門戸をさらに広げながらも、どれだけ教育の質を高められるのかが、これからさらに問われていくことになるでしょう。


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コミュニティ・カレッジでの留学にはコツがいります
上記の様に、卒業率も4年制大学への編入率も平均が非常に低いコミュニティ・カレッジ。留学でコミュニティ・カレッジを選択する場合、どの大学を選ぶか、何のために選ぶかによって、その後の進学や就職が4年制大学以上に大きく左右されます。安くて入りやすい分、慎重に選ばないと、将来のリスクも大きいのです。
この留学が自分に適しているのか、何から準備すれば良いのか、その大学を選ぶとどうなる可能性があるのか、留学を考えたら一度はプロの留学カウンセラーに話を聞いてみることをおすすめします。
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